伝達、変速…育ちが決め手 三冠達成
いすゞ自動車の川崎芳樹(52)写真右は、名実ともに歯車博士として、その存在をしられる。
彼は昨年夏、日本機械学会の伝動装置に関する調査研究分科会でアウトバーンを疾走する 主導変速機歯車の造りこみと題する技術講演をした。
アウトバーンは、先刻ご存じのように、ドイツ国内にはりめぐらされた速度無制限の高速道路の
こと。
低速域の時速10キロから高速域の300キロまで、広い領域にわたって高機能を維持しなければ
ならない。
しかもドイツ人は、ベートーベンやワグナーを生んだ国だけあって音に敏感であり、ことのほか ギアノイズに厳しい。
私たちは、ドイツのオペルにトランスミッション(伝動装置)を送り続けているんです
手動変速機の歯車づくりでは世界一、という誇りを裏付けるように、川﨑のグル-プは数多くの 特許と賞を得てきた。
例えば、自動車技術会の技術賞(新歯車自動選別機の開発・1985年5月) 日本機械学会技術功績賞(自動車用手動変速機の品質向上・95年4月)。そして、 精密工学会の技術賞(自動車用変速機歯車の高精度・低コスト生産システムの開発・同年9月)。 工学エンジニアとして、正に夢の三冠を手にしたのだ。
力を伝達すると同時に変速する歯車は、五千年も前の古代エジプト文明の時代からこの世に存在している。
もっとも、川﨑に言わせると
古くて新しいもの。それが歯車。エンジンは生まれ(設計)で決まるけれど、歯車は育ち(製造)です。それほど歯車造りは難しい
歯車の製造は、曲面加工だ。そのうえ、機能と品質の死命を制する重要な二工程、シエービングと 熱処理に再現性がない。言葉を変えていえば全く同じものは作れない、というのが歯車である。
川﨑は、歯車製造を音楽演奏に例える。
同じ楽譜(設計図)でも楽団(工場)、指揮者(工場長)、 演奏者(製造技能者)楽器(設備)演奏ホール(車両)観客(運転者)により、満足度も理解度も 異なるわけだ。
コンサートマスターに相当するのは、セービングカッターの研磨技能者ですね
川﨑は、そう言って研磨の匠名腰豊=写真左=の名前をあげた。
指の感触だけでミクロの研磨をしてしまう神業に圧倒される。
いいモノが作れるかどうかは結局、メシを食った数で決まるんです
川﨑自身、知識と体験を積み重ね、51歳で工学博士号を取得した。
=文中敬称略=
*かわさき・よしき いすゞ自動車 技術開発部長 工学博士 技術士
ジャーナリスト 島谷泰彦
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